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売春防止法見直し報告書に地方紙社説が相次ぐ 北海道新聞「女性の人権守る改正に」、高知新聞「性売る背景に目を向けよ」

法務省の有識者検討会が9月17日に売春防止法見直しの報告書を決定したことを受け、新聞各紙の社説が相次いでいる。東京新聞・中日新聞は9月18日、北海道新聞は9月21日、高知新聞は9月23日にそれぞれ社説を掲載した。いずれも「買う側」の勧誘を処罰対象とする方向を不均衡の是正として一定の評価をしつつ、処罰強化による性売買の「地下化」と、売る側の女性への保護・支援の不足を共通の懸念として挙げている。高知新聞はさらに、報告書が売る側の勧誘等罪を存置した点にも疑問の声があることを取り上げた。

売春防止法見直し報告書に地方紙社説が相次ぐ 北海道新聞「女性の人権守る改正に」、高知新聞「性売る背景に目を向けよ」

報告書決定から1週間、社説が相次ぐ

法務省の有識者会議「売買春に係る規制の在り方検討会」は2026年9月17日、売春防止法の見直しに関する報告書を決定した。報告書は、現行法が「売る側」の勧誘・客待ちだけを処罰し「買う側」には罰則がない不均衡を是正するため、買う側の勧誘行為などを新たに処罰対象とする方向を示している(詳細は当サイト9月18日の記事で報じた)。

この報告書決定を受け、新聞各紙が社説で相次いで論評している。確認できた主なものは次のとおり。

掲載日 新聞 社説の見出し
9月18日 東京新聞・中日新聞 売買春の規制 女性の人権守るために
9月21日 北海道新聞 売買春の規制 女性の人権守る改正に
9月23日 高知新聞 売買春の処罰 性売る背景に目を向けよ

報告書案の段階(8月下旬)でも琉球新報や信濃毎日新聞などが社説を掲載していたが、今回は報告書が正式に確定し、法務省が秋の臨時国会への改正案提出を視野に入れる段階での論評となる。

北海道新聞(9月21日):「女性の権利擁護が極めて希薄」

北海道新聞は、1956年制定の売春防止法について「当時の社会状況を反映し、女性の権利擁護が極めて希薄」だと指摘した。売る側だけを罰し買う側を罰しない現行の仕組みが「性売買の横行を招いている」とし、買う側の勧誘行為などを処罰対象とする報告書の方向を評価している。

一方で、規制強化によって性売買が「地下化」し、女性がより危険にさらされる懸念にも言及した。売春する女性の多くが「貧困や虐待、生活苦、障害など困難を抱えている」として、処罰の見直しと並行して保護や支援を強化することが根本的な解決に不可欠だと強調している。

国際比較としては、米国・英国・韓国が売る側と買う側の双方を処罰していること、スウェーデンが買う側のみを処罰して売る側を福祉で支援する、いわゆる「北欧モデル」を採り、カナダやフランスが同様の制度を導入していることを紹介した。

高知新聞(9月23日):「処罰だけで問題は解決しない」

高知新聞は、東京・歌舞伎町でホストクラブの借金を背景にした売春が社会問題化したことが見直しの契機になったと整理したうえで、法務省が早ければ今秋の臨時国会に改正法案を提出する構えであることについて、国会での十分な論議を求めた。

同紙が特に取り上げたのは、報告書が踏み込まなかった部分である。

  • 検討会では売春行為そのものの処罰化も議論されたが、「保護や支援の対象とすべき者がいることを踏まえると慎重であるべき」との意見が複数出たこと
  • 成人間の同意に基づく性交について、その同意を無効とすることの理論的・法的な正当化は困難だと検討会が指摘したこと
  • 報告書は売る側の勧誘等罪の維持を提案しているが、売る側は処罰の対象から外すべきだとの声もあること

海外の事例としては、米国(ニューヨーク州)が双方を規制し、スイスやオランダが条件付きで合法化していることを挙げ、制度の違いは各国が「性売買を巡る課題に苦慮してきた証し」だと表現した。また、海外では買う側の規制を強めた後に、売る側の収入減少や地下化、より危険な客を相手にせざるを得なくなるリスクの増加が指摘されていると紹介。国際人権団体が「禁止や処罰化より、搾取や虐待から守ることに重点を置くべき」と主張していることにも触れ、「処罰だけで問題は解決しない」と結論づけている。

東京新聞・中日新聞(9月18日):処罰と生活支援の「両輪」

報告書決定の翌日に掲載された東京新聞・中日新聞の社説は、売春に至る背景にある「困窮や虐待、性暴力などの社会構造にメスを入れなければ、問題解決にはつながらない」とし、規制強化で売買春が地下に潜り、女性がより危険にさらされる恐れも指摘した。スウェーデン、フランス、カナダなど買う側のみを処罰する国の例を挙げ、フランスが買春の処罰と売る側への生活支援を両輪としている点を紹介。売買春を「女性の人権問題」として捉え、法規制は救済・支援と一体で検討すべきだと主張している。

3紙に共通する論点と違い

3紙の主張を整理すると、次のようになる。

共通している点 - 買う側に罰則がない現行法の不均衡を是正する方向には、いずれも一定の理解を示している - 処罰強化による「地下化」で、売る側の女性の危険が増すことを懸念している - 貧困・虐待・借金などの背景に対応する保護・支援策を、処罰と一体で進めるべきだとしている

力点が異なる点 - 北海道新聞は、現行法そのものの人権意識の欠如を強く批判し、改正を前向きに捉える論調 - 高知新聞は、報告書が見送った論点(売春行為の処罰化、売る側の勧誘等罪の存廃)や、同意をめぐる法理上の難しさに紙幅を割き、国会での慎重な審議を求める論調 - 東京新聞・中日新聞は、フランス型の「処罰と生活支援のセット」を具体的な参照モデルとして示している

背景

売春防止法は制定から70年を迎えるが、勧誘等罪を含む刑事規制の部分は制定時の枠組みのまま残ってきた。2024年施行の困難女性支援法によって「保護更生」に関する規定は切り離されたものの、「売る側だけが検挙される」構造は変わっていない。

今回の報告書は、買う側の勧誘・うろつき・SNSでの勧誘などを処罰対象に加える一方、売春行為そのものの処罰化は見送り、売る側の勧誘等罪も存置する内容となった。各紙の社説が一様に「支援とセットで」と強調しているのは、報告書が刑事規制の均衡を取ることに主眼を置いており、当事者支援の具体策は別の制度に委ねられている構造を反映したものとみられる。

性風俗業界の側から見ると、今回の見直しは主に路上やSNSでの個人間の売買春を念頭に置いたもので、店舗型・無店舗型の届出営業を直接の対象とするものではない。ただし、「勧誘に応じる行為」や「周旋を求める行為」がどう条文化されるかによっては、SNSを介した個人営業や、届出の範囲を外れたサービスの周辺にも影響が及ぶ可能性がある。どこまでの行為を処罰対象とするかは、法務省がこれからまとめる条文と、臨時国会での審議に委ねられることになる。

社説が相次いで「処罰だけでは解決しない」と論じていることは、改正案の国会審議で支援策とのセットがどこまで具体化されるかが、次の焦点になることを示している。


本記事は北海道新聞(2026年9月21日社説)、高知新聞(同9月23日社説)、東京新聞・中日新聞(同9月18日社説)の論評をもとに構成しています。