風俗ニュース

「買う側」処罰10年のフランス、合法化20年超のドイツ 日テレが両国を現地取材、売春防止法見直しの参照軸に

日テレNEWS NNNが2026年7月27日、性産業規制をめぐる2本の現地取材リポートを配信した。「買う側」を処罰し「売る側」の離脱を支援する法律の施行から10年を迎えたフランスと、2002年に売春を合法な契約として認めて20年以上が経過したドイツを、正反対のモデルとして対比する内容だ。法務省の有識者検討会が2026年3月から売春防止法の規制の在り方を議論している日本にとって、両国の現在地は制度設計の参照軸になる。フランスでは離脱支援の第1号となった女性が正規雇用で6年働き、ドイツでは合法化後に市場が拡大して現在は買春処罰の導入が議論されている。

「買う側」処罰10年のフランス、合法化20年超のドイツ 日テレが両国を現地取材、売春防止法見直しの参照軸に

報道の概要

日テレNEWS NNNは2026年7月27日、「性産業の規制はどこへ向かうべきか――フランスの"挑戦"とドイツの"誤算"」と題した現地取材リポートを、フランス編(同日20時00分配信)・ドイツ編(同20時05分配信)の2本立てで公開した。

同リポートは、性産業規制の代表的な二つの方向――「買う側を罰する」フランス型と、「売買そのものを合法化する」ドイツ型――について、施行から10年および20年以上が経過した現地の状況を伝えている。

記事は冒頭で、日本の状況にも触れている。法務省の有識者会議が2026年3月、売春の防止を目的とした売春防止法にかかわる規制の検討を開始したという点だ。当サイトでも既報のとおり、この「売買春に係る規制の在り方に関する検討会」は3月24日に初会合を開き、北川佳世子・早稲田大学大学院教授が座長を務めている。現行法が「売る側」の勧誘等を処罰する一方で「買う側」に処罰規定を置いていない非対称の是正が、最大の焦点となっている。

フランス編 ―― 「買う側」を罰し、「売る側」を出口へ

フランスでは2016年、買春した側を処罰し、売春から離脱する側を支援する法律が施行された。2026年で10年になる。

報道および公開資料によれば、この制度の骨格は次のとおりである。

項目 内容
買う側 初犯は1500ユーロの罰金、再犯は最高3750ユーロ
買う側への付随措置 売春の実態を学ぶ講習の受講義務
売る側 職業訓練等による社会復帰プログラム(離脱支援)
外国籍の当事者 売春をやめ支援団体の支援を受けることを条件に、6か月の一時滞在許可

この構造は「北欧モデル」と呼ばれる類型に属する。買春処罰を先行して導入した国は、スウェーデン(1999年)を皮切りに、フィンランド(2006年)、ノルウェー(2006年)、アイスランド(2009年)、カナダ(2014年)、フランス(2016年)と続いている(弁護士JPニュースの整理による)。

日テレのリポートは、この制度の離脱支援を最初に受けた当事者として、コンゴ民主共和国出身の女性ホープさんを取材している。報道によると、ホープさんはキンシャサで孤児となり11歳から売春を余儀なくされ、16歳のときに人身取引業者の手引きで多数の女性とともにフランスへ渡った。17歳で妊娠が判明した際、業者からは中絶を求められたが拒み、妊娠6か月の状態でも売春を続けざるを得なかったという。

現在はパリ郊外の倉庫で管理職として働いており、本人は「正規雇用で働いて、もう6年になる」と語っている。法施行10年を記念して2026年4月に開かれた式典では、約300人を前に「この法律は世界中で作られるべきだ」と述べたと報じられている。

司法と国際機関による評価は割れている

フランスの制度は、支持一色ではない。評価は司法と国際機関で分かれている。

  • 欧州人権裁判所(2024年7月25日):セックスワーカー261人が2019年12月に申し立てた訴えについて、フランスの買春処罰法は欧州人権条約8条(私生活の尊重)に違反しないと判断した。申立人側は「需要が減ることで交渉力が弱まり、危険な条件を受け入れざるを得なくなる」と主張したが、裁判所は各国政府に広い裁量を認め、法律が直接その被害を生じさせたと証明するには証拠が不十分だとした(ヒューライツ大阪の紹介による)
  • 国連女性差別撤廃委員会(2016年):フランスに対し、買春処罰が「逆効果」を生み、当事者の安全と健康のリスクを高める恐れがあると警告した。支援サービスの財源不足、とりわけ移民女性への支援の不足も指摘している
  • 同委員会のスウェーデン評価(2016年):施行17年で街頭売春が約半減した一方、保護・回復・社会復帰措置の体系的な欠如と、データ収集の不十分さを批判している

つまり、「買う側を罰する」という一点だけを移植しても、離脱支援の中身と財源が伴わなければ制度は機能しない、というのが国際機関の側からの一貫した指摘である。

ドイツ編 ―― 合法化20年余りの「誤算」

ドイツは正反対の道を選んだ。2002年に法改正が行われ、売春が法的に有効な「契約」として認められた。当事者は報酬を請求でき、社会保険に加入でき、仲介業も正規の事業として営めるようになった。2016年10月には売春従事者保護法(ProstSchG)が可決され、2017年7月1日に施行されて、届出義務や営業許可制などが加えられている。

日テレの取材に対し、EU議会のマリア・ノイヒェル議員(ドイツ社民党)は、合法化が「売春する女性を犯罪者として扱うべきではない」という考えに基づいていたとして、「基本的な考え方は悪いものではなかった」と振り返っている。

しかし想定どおりには進まなかった、というのがリポートの主旨である。報じられた「誤算」は主に次の点だ。

  • 雇用契約化が進まなかった:業者は給与・福利厚生・保険という固定費を負担する一方、業務の性質上、従業員に労務の提供を強制できない。結果として大半の当事者は自営業のまま残った
  • 市場が拡大した:日テレの報道によれば、ドイツ国内には2.7兆円規模の性産業市場が形成され、毎日120万人の男性が性的サービスを購入しているとされる。ドイツは「ヨーロッパの売春宿」と呼ばれるまでになった
  • 東欧からの流入:EUの東方拡大により、自由化された市場に安価な労働力が流入した

そして現在、ドイツ国内では買う側の処罰の導入が議論されている。合法化から20年余りを経て、逆方向への揺り戻しが起きている形だ。

※市場規模と1日あたりの購入者数は日テレNEWSの報道による推計値であり、算定根拠や年次は明示されていない。

背景 ―― 日本の議論に何を返すか

日本の売春防止法は1956(昭和31)年制定で、70年を経て初めての抜本的な見直し議論に入っている。現行法は売春そのものを禁じながら、売る側本人も買う側も原則として処罰せず、勧誘・周旋・場所の提供・管理売春といった「周辺行為」だけを罰する。一方で、風営法の枠組みによって性風俗特殊営業の届出制が運用されており、禁止と黙認が並存する状態が続いてきた。

今回の2本のリポートが提示しているのは、日本の検討会が向き合う選択肢が、単純な二択ではないという事実である。

  • フランス型(買う側処罰+離脱支援)は、10年を経て欧州人権裁判所の審査を通過し、離脱の実例も生んだ。ただし国連の委員会からは支援の薄さを繰り返し指摘されており、処罰と支援はセットでなければ制度が成立しない
  • ドイツ型(合法化)は、当事者を犯罪者にしないという理念自体は否定されていない。しかし労働法上の雇用関係に落とし込めず、市場規模だけが拡大した。「合法化すれば労働者として保護される」という前提が、この業種では自動的には成り立たなかった

日本の検討会では、買う側の処罰について「知的障害や精神障害がある相手」「経済的困窮につけ込む行為」に限って処罰を求める意見と、「同意に基づく行為への処罰は慎重であるべきだ」とする意見が併存し、結論には至っていない。海外二か国の10年・20年の実績は、どちらのモデルを選んでも、出口支援の財源と労働法上の位置づけという二つの宿題が残ることを示している。

本記事は日テレNEWS NNN、弁護士JPニュース、ヒューライツ大阪、FRIDAYデジタル、国立国会図書館「外国の立法」等の報道・公開資料をもとに構成しています。