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「買う側」規制の報告書、9月中に取りまとめへ 韓国の22年を検証する報道と地方紙社説が相次ぐ

法務省の有識者検討会が8月24日に報告書案を大筋了承してから3週間、売春防止法の改正論議をめぐる報道が一気に増えている。信濃毎日新聞は9月12日の社説で「現行法の骨格から変えよ」と主張し、朝日新聞は9月10日から13日にかけて、2004年に性売買特別法を施行した韓国の22年を検証する連載を配信した。共通して浮かぶのは、「買う側」を罰すれば女性を守れるのか、それとも性売買がより見えない場所へ潜るのか、という論点である。報告書は9月中にまとまり、秋の臨時国会に改正案が提出される見通しとなっている。

「買う側」規制の報告書、9月中に取りまとめへ 韓国の22年を検証する報道と地方紙社説が相次ぐ

報告書取りまとめを前に、論議が表に出てきた

法務省の有識者検討会「売買春に係る規制の在り方検討会」(座長=北川佳世子・早稲田大学大学院教授)は2026年8月24日の第8回会合で、報告書案を大筋で了承した。時事通信によれば、報告書は9月中にもまとまり、法務省は早ければ秋の臨時国会に売春防止法改正案を提出する方向で検討している。

その取りまとめを目前にして、9月に入ってから各紙の報道が急に増えた。信濃毎日新聞は9月12日付の社説で現行法の骨格そのものの転換を求め、朝日新聞は9月10日から13日にかけて、2004年に性売買特別法を施行した韓国の現在を追う連載を配信している。単発の摘発記事ではなく、法制度の是非を正面から論じる記事が並んだのは、1956年の制定から70年で初めてに近い状況といえる。

検討会が示した方向性は、報道によれば次のとおりである。

論点 報告書案の扱い
「買う側」の勧誘行為(売春目的で路上を徘徊する行為など) 何らかの規制を設けるべきとの見解でおおむね一致
買春行為そのものへの罰則導入 「慎重な検討が必要」。売買春が地下に潜り、売る側のリスクが高まるため
留意点 「買う側」が勧誘目的かどうかを外形から区別するのが難しい
会議の回数 2026年3月24日の第1回から8月24日の第8回まで(法務省公表)

つまり検討会は、買春そのものの全面処罰までは踏み込まず、勧誘の場面に限って「買う側」を規制の対象に加えるという、限定的な入り口を選んだ形になる。

「性道徳」から「女性の人権」へ——社説が求めた骨格の転換

信濃毎日新聞の社説は、この限定的な改正では足りないという立場を取る。

同紙が問題にしているのは、売春防止法の目的規定そのものである。現行法は売春を「人としての尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良の風俗をみだすもの」と位置づけており、守るべき対象の重心が個人の人権ではなく社会の風俗秩序に置かれている。そのうえで罰則は、勧誘した「売る側」の女性に向けられる構造になっている。

社説はこの構造の由来として、1949年に国連総会で採択された「人身売買及び他人の売春からの搾取の禁止に関する条約」を挙げる。同条約は性売買を人としての尊厳に反するものと位置づけたが、日本は1958年の批准に先立って売春防止法を制定した際、条文で売春が尊厳を害すると認めながら、性的搾取の被害者であるはずの女性の側に処罰規定を置いた。この矛盾が70年間そのまま残っている、というのが同紙の指摘である。

そのうえで社説は、買春側のみを処罰するスウェーデン型の規制がフランスなどに広がっていることに触れ、「女性の人権を柱に据えて、性売買の規制のあり方を再構築しなくてはならない」と結論づけている。

韓国の22年——先行例が示したもの

もう一つの軸が、韓国である。

韓国は2004年、「性売買斡旋等行為の処罰に関する法律」と「性売買防止及び被害者保護等に関する法律」(あわせて性売買特別法と呼ばれる)を施行した。集結地の施設で起きた火災で多数の女性が犠牲になったことが立法の契機になったとされ、TBS「news23」は犠牲者を19人と伝えている。この法律の核心は、売る側を処罰の対象ではなく「被害者」と位置づけ、抜け出すための支援に公費を投じるという設計にあった。

報道されている数字は次のとおりである。

項目 内容(報道による)
支援予算 年間約30億円(日本円換算、2026年)
支援施設 全国90か所以上
支援を受ける人数 毎年5,000人以上
社会復帰 年間およそ1,000人
ソウル「ミアリテキサス」 ピーク時に約3,000人・約300店舗 → 現在はほぼ更地

朝日新聞の連載は、かつて女性が並んでいた「ショーケース」と呼ばれる店舗が廃墟になった釜山の街を歩き、価値観が「商取引ではなく搾取」へと転換していく過程を追っている。一方で同連載は、性売買から抜け出した女性が「『自ら選んだ』と思わないと生きられない」と語る現実や、支援の場でようやく「たくさん食べ、眠る」ことができるようになった女性たちの姿も伝えており、法改正から22年たってもなお課題が残っていることを併記している。

日本側の懸念——「地下化」は誰のリスクになるか

日本の議論で繰り返し出てくる懸念が、地下化である。

朝日新聞は9月10日、「買う側」の処罰化で本当に女性を守れるのかを支援の当事者に問う記事を配信した。検討会でも同じ懸念が共有されており、買春行為そのものへの罰則導入を見送った理由として、時事通信は「売買春が地下に潜り、『売る側』のリスクが高まる」という考え方でまとまったと報じている。

論点を整理すると、こうなる。

  • 取り締まりを強めると、交渉は路上から通信アプリやSNSへ移る。第三者の目が届かない場所ほど、暴力や不払いの被害は表に出にくくなる
  • 摘発を恐れる買い手ほど、身元の確認や記録を嫌う。トラブルが起きたときに追跡できる情報が減る
  • 「売る側」が被害を申告しにくい構造は残る。勧誘等罪が残る限り、通報は自らの処罰リスクと表裏になる

韓国の経験も、この点では両義的に読まれている。集結地という目に見える形態は大きく縮小した一方で、他業種への偽装やインターネットを使った形への移行が指摘されてきた。規制が「なくす」のか「見えなくする」のかは、罰則の設計だけでなく、抜け出す側にどれだけ支援の受け皿を用意するかに左右される——韓国が年間約30億円を投じてきたのは、その受け皿の部分である。

背景:70年動かなかった法律が動くとき

売春防止法が実質的に改正されないまま70年を経たのは、それが単なる刑事法ではなく、戦後日本が性売買をどう位置づけるかという価値判断そのものだったからでもある。

今回の改正が仮に「勧誘の場面での買う側の規制」にとどまるとしても、それは処罰の矛先を初めて買い手側にも向けるという点で、法の性格に触れる変更になる。逆に、目的規定に手を付けず罰則だけを足せば、「性道徳と善良の風俗を守る」という骨格の上に人権保護の看板を掛けることになり、社説が指摘した矛盾はむしろ複雑になる。

報告書が9月中にまとまれば、論点は法務省の検討会から国会へ移る。実際に女性が置かれている場所——スカウト、ホストクラブの売掛、無許可店舗、路上——で何が変わるのかは、条文の一行ではなく、罰則と支援と現場の運用がどう噛み合うかで決まる。報道が一斉に「韓国の22年」を検証し始めたのは、その答え合わせを先行例に求めようとしているからだといえる。


本記事は時事通信、信濃毎日新聞、朝日新聞、TBS「news23」および法務省公表資料をもとに構成しています。検討会の報告書は本稿執筆時点(2026年9月14日)で正式公表されておらず、内容は報道による報告書案の段階のものです。