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新宿・トー横の「いのっち」を再逮捕 16歳女子高生に向精神薬約420錠を約19万円で譲渡した疑い 過去には売春防止法違反などで起訴

警視庁少年育成課は2026年7月24日、東京・新宿の歌舞伎町「トー横」周辺で少女らに薬物を売っていたとされる無職の男(24)を、麻薬取締法違反(営利目的譲渡)の疑いで再逮捕した。報道によると、男は2026年5月、神奈川県内の16歳の女子高校生に睡眠薬や精神安定剤などの向精神薬計約420錠を約19万円で譲り渡した疑いが持たれている。男は「いのっち」と呼ばれ、逮捕は3回目。過去には不同意性交等罪や売春防止法違反などで起訴されている。少女らに未成年の医療費助成制度を使って病院を受診させ、自己負担なく処方された薬を回収して転売していたとみられる。

新宿・トー横の「いのっち」を再逮捕 16歳女子高生に向精神薬約420錠を約19万円で譲渡した疑い 過去には売春防止法違反などで起訴

再逮捕の経緯

警視庁少年育成課は2026年7月24日、住居不定・無職の井上翔太容疑者(24)を、麻薬取締法違反(営利目的譲渡)の疑いで再逮捕した。朝日新聞、毎日新聞、産経新聞、TBS系(JNN)などが同日から25日にかけて報じた。

井上容疑者は東京・新宿の歌舞伎町にある「トー横」と呼ばれる一帯で、集まる少女らに処方薬を売っていたとされる人物で、周辺では「いのっち」の通称で知られていたという。今回の再逮捕は3回目の逮捕にあたる。

本記事で扱う容疑の内容や数字はいずれも報道に基づくものであり、事実認定は今後の司法手続きで確定するものである。現時点で有罪が確定したわけではない。

容疑の内容――5月の2回の取引

報道によると、井上容疑者にかけられている容疑は、2026年5月、神奈川県内に住む16歳の女子高校生(高校1年)に対し、睡眠薬や精神安定剤などの向精神薬を営利目的で譲り渡したというものである。

各社が伝える取引の内容を整理すると、次のようになる。

項目 報道されている内容
時期 2026年5月
相手 神奈川県内の16歳・高校1年の女子生徒
薬剤 睡眠薬、精神安定剤などの向精神薬
数量 計約420錠
金額 計約19万円
内訳(毎日新聞) 5月3日ごろに約200錠を9万円、5月9〜11日ごろに約220錠を10万円

毎日新聞は上記のとおり2回の取引に分けて報じている。一方、産経新聞は約200錠・9万円分の譲渡を中心に伝えており、報道によって触れている取引の範囲に幅がある。朝日新聞とTBS系は、計約420錠・約19万円という総額で報じている。

少女がこれらの薬を求めた目的は、いわゆるオーバードーズ(OD=過量服薬)だったとされる。

「医療証」を使った入手ルート

今回の事件で注目されるのは、薬の入手方法である。

報道によれば、井上容疑者は自ら病院を受診して薬を集めるだけでなく、未成年者を対象とした医療費助成制度を利用し、少女らに都内の病院を受診させていたとみられている。自治体の医療証を使えば少女らの自己負担はほとんど発生しないため、処方された薬をそのまま回収し、転売に回すことができる、という構図である。

井上容疑者は捜査当局に対し、都内の医療機関を受診して薬を入手していた旨を説明しているとされる。産経新聞によると、販売を始めた経緯については「友人にお金が稼げるとすすめられ、昨年冬ごろから販売するようになった」という趣旨の供述をしているという。

毎日新聞は、これまでに14歳から20歳の女性5人に薬が渡ったとみられると伝えている。警視庁は、同様の手口で複数の少女に薬物が流れていた可能性があるとみて調べを進めている。

子どもの医療を支えるために設けられた公的な助成制度が、薬物の仕入れルートとして使われていた疑いがあるという点は、この事件の特異な部分である。制度そのものは受診の壁を下げるためのものだが、処方薬に転売価値がある以上、その仕組みが逆用されうることを示している。

3回目の逮捕――過去には売春防止法違反などで起訴

井上容疑者は、今回の再逮捕より前に2度逮捕され、いずれも起訴されている。

報道によると、過去の罪名には不同意性交等罪と売春防止法違反が含まれる。TBS系は、女子中学生に売春をさせたことなどに関連して逮捕・起訴されていたと伝えている。つまり今回の薬物事件は、同一人物をめぐる一連の捜査のなかで、性的被害・性売買に関する立件に続いて出てきた三つ目の局面ということになる。

この経過は、事件を「薬物事件」としてだけ読むことを難しくする。少女に薬を売っていた人物が、別の場面では少女を売春に関与させた疑いで起訴されている。二つの行為は、同じ相手方――未成年の少女――に対して、別の形で向けられていたことになる。

「薬を買う金がないなら体で稼げばいい」

毎日新聞は、井上容疑者が少女に対し「薬を買う金がないなら体で稼げばいい」という趣旨の言葉をかけていた疑いがあると報じている。

この一文は、本件の構造を端的に示している。

  • 少女がODのために薬を求める
  • 薬は無料ではなく、数万円から十数万円の対価を要求される
  • 対価を払う金がない
  • 「体で稼げばいい」と持ちかけられる

薬物への依存が、そのまま性売買への入り口として機能する回路である。ここでは、性を売ることが目的として提示されるのではなく、別の欲求(薬を得ること)を満たすための手段として、事後的に差し出される。少女の側から見れば、自分から性風俗や売春を選んだという形式を取りながら、実際には選択肢が先に潰されている。

なお、この発言に関する報道は現時点で毎日新聞の報じるところによるものであり、他社が同一の文言を確認しているかは明らかでない。発言の有無や正確な内容も、今後の手続きで争われうる。

認否をめぐる報道の食い違い

認否については、報道の間で表現が分かれている。

毎日新聞、産経新聞、TBS系は、井上容疑者が「容疑を認めている」と伝えている。一方で朝日新聞は、薬を譲り渡したこと自体は認めつつ、「営利のための販売はしていない」として営利目的については否認している趣旨を報じている。

営利目的の有無は、麻薬取締法違反の法定刑に直結する要素である。単純譲渡と営利目的譲渡では扱いが大きく異なるため、この点は今後の捜査・公判で争点になる可能性がある。当サイトとしては、いずれかの報道を採って断定することはせず、両論を併記するにとどめる。

背景――「トー横」と性売買をつなぐ回路

トー横は、新宿・歌舞伎町のシネシティ広場周辺一帯を指す通称で、家庭や学校に居場所を持たない若年層が集まる場として知られてきた。警視庁は2023年ごろから同区域での取り締まりと保護活動を強化してきたが、集まる層そのものが消えたわけではない。

この場所をめぐって繰り返し指摘されてきたのが、居場所を求めて集まった少女が、薬物・性売買・スカウトといった複数の回路に同時に接続されてしまうという構造である。今回の事件は、そのうち「薬物」と「性売買」が同一の人物を介してつながっていた疑いを示す事例といえる。

歌舞伎町では、大久保公園周辺で売春目的の客待ちをしたとして、2026年1月から6月までの半年間にのべ40人が売春防止法違反の疑いで逮捕されている。最年少は16歳の高校1年生だった(当サイトの大久保公園周辺の客待ち摘発でも整理した)。同じ街の、同じ年齢層で、入り口の異なる複数の事件が並行して立件されている。

供給側規制の死角

近年の法整備と摘発は、性風俗産業の「供給側」に照準を合わせてきた。

2025年6月28日に施行された改正風営法は、ホストクラブの悪質な色恋営業や高額な売掛金を規制し、性風俗店がスカウトグループに紹介料を支払う「スカウトバック」を禁じた。施行から1年が経ち、全国でホストクラブや性風俗店、違法スカウト集団への摘発が相次いでいる(改正風営法・施行1年)。法務省では、売春防止法について買う側への罰則導入を含む見直しの議論も進んでいる(売春防止法の見直し議論)。

これらの規制は、「ホストクラブでの負債 → 返済のための性売買 → スカウトによる紹介」という、これまで最も可視化されてきた回路を締めるものである。

だが今回の事件が示すのは、その回路とは別の入り口が存在するということだ。ホストクラブも、スカウトも、性風俗店の営業許可も介在しない。街頭で薬を売る個人と、薬を求める少女との一対一の取引のなかで、「体で稼げばいい」という提案が挟まれる。ここには規制対象となる事業者が存在せず、営業許可も、名簿も、紹介料の記録も残らない。

供給側の事業者を規制する枠組みは、事業者が存在する場所でしか作動しない。負債や紹介ではなく、薬物への依存が対価を生む動機になっているとき、風営法や職業安定法の網は直接には届かない。この事件で立件されたのが薬物譲渡の罪であって、性売買に関する新たな罪ではないことも、その一端を示している。

未成年の医療費助成という福祉制度が仕入れに使われ、依存が性売買への動機に変換される。制度と街頭のあいだにある、この種の隙間をどう扱うかは、事業者規制の強化とは別に問われる課題であろう。


本記事は朝日新聞、毎日新聞、産経新聞、TBS系(JNN)などの報道をもとに構成しています。取引回数・数量の内訳、少女への発言内容、認否については報道により記述が分かれるため、断定を避けて併記しています。本件は容疑の段階であり、有罪が確定したものではありません。