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客引きの相手は私服警察官だった 札幌・すすきので逮捕相次ぐ、過料止まりの市条例ではなく「逮捕できる」道条例で立件

札幌・中央警察署は2026年8月3日、北海道迷惑行為防止条例違反(客引き)の疑いで札幌市中央区の無職の女(36)を逮捕した。女は7月18日未明、歩道上で取り締まり中の私服警察官に約2分間、執ように声をかけた疑いがもたれている。同署は7月27日にも同じ手法で28歳の男を逮捕しており、すすきの周辺では私服警察官を使った客引き摘発が相次いでいる。札幌市には独自の客引き防止条例があるが罰則は5万円以下の過料にとどまり、身柄を取れる北海道迷惑行為防止条例が実務上の主戦場になっている。

客引きの相手は私服警察官だった 札幌・すすきので逮捕相次ぐ、過料止まりの市条例ではなく「逮捕できる」道条例で立件

8月3日の逮捕――2分間の声かけで

札幌・中央警察署は2026年8月3日、北海道迷惑行為防止条例違反(客引き)の疑いで、札幌市中央区の無職の女(36)を逮捕した。STVニュース北海道が同日夜に報じた。

逮捕容疑は、7月18日午前1時半前、札幌市中央区の歩道上で、およそ2分間にわたり男性に対して執ように客引きをしたというもの。報道によれば、女がかけた言葉は「地元の方ですか」「何屋さん行くこと多いですか」「飲み屋さんとか行くとしたら、何屋さんか」といった内容だった。

だが、声をかけた相手は取り締まり中の私服警察官だった。

女は調べに対し「私のやったことに間違いない」と容疑を認めているという。警察は余罪があるとみて捜査を進めるとともに、動機を詳しく調べている。

1週間前にも、ほぼ同じ構図で逮捕

この逮捕は単発の出来事ではない。中央警察署は7月27日にも、同じ北海道迷惑行為防止条例違反(客引き)の疑いで28歳の男を逮捕している。こちらはSTVニュース北海道、UHB北海道文化放送、HBC北海道放送(TBS NEWS DIG)が独立して報じた。

男の容疑は、6月23日午前2時ごろ、札幌市中央区南5条西4丁目の歩道上で、客引き取り締まり中の私服警察官に対し執ように客引きをしたというもの。報じられた誘い文句は「いい話です、お兄さん」「まじで慎重に店を選ばないと当たり外れありますよ」「ぶっちゃけ何系でさがしていたんですか」「行くんだったら本当にパブ、スナックさんですか? その方が安くて70分とかでカラオケ付きで飲めたりするんでそっちの方がよいですよ」などとされる。

男は「客引き行為をしたことは事実です」と認めつつ、「誘い文句に関してはよく覚えていない」と供述しているという。逮捕は行為から約1か月後の7月27日午後8時20分ごろ、中央区南6条西3丁目で行われた。

なお、この男の住居について、STVは「札幌市中央区の無職の男」、UHBは「住所不定無職の男」と伝えており、報道間で記載が異なる。ここは断定を避ける。

UHBはさらに、警察が男について「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)に絡むスカウトグループに所属している可能性もあるとみて」余罪を含めて捜査を進めている、と報じている。

この1週間あまりの「すすきの」関連摘発

逮捕日 対象 容疑 対象行為の日時
7月27日 無職の男(28) 北海道迷惑行為防止条例違反(客引き) 6月23日午前2時ごろ
7月28日 無職の男(25) 風営法違反(無許可接待・18歳未満への接待) 2025年10月25日
8月3日 無職の女(36) 北海道迷惑行為防止条例違反(客引き) 7月18日午前1時半前

いずれも札幌・中央警察署による摘発で、行為から逮捕まで1か月から9か月の開きがある。現場で即座に検挙するのではなく、私服捜査員が証拠を確保したうえで後日に身柄を取る、という運用がうかがえる。

なぜ「市の条例」ではなく「道の条例」なのか

札幌市には、客引きを直接の対象とした独自の条例がある。「札幌市客引き行為等の防止に関する条例」で、2022年7月1日に全面施行された。禁止区域は、市道北8条線・市道西7丁目線・市道南7条線・創成川通(市道真駒内篠路線および国道5号)で囲まれた区域内の公共の場所とされ、すすきのはこの中に含まれる。

同条例は「何人も、禁止区域において、客引き行為等を行ったり、行わせてはなりません」と定めるほか、事業者に対しても、禁止区域での客引きを受けた者を客として店内に立ち入らせること、勧誘行為を受けた者を自店で働かせることを禁じている。

ただし、その罰則は市の説明によれば「命令に違反した場合には、5万円以下の過料を科すとともに、氏名や住所(法人はその名称や事務所の所在地)等を公表することができます」というものだ。過料は行政上の秩序罰であり、刑事罰ではない。前科もつかないし、身柄を拘束することもできない。

一方、今回の2件で使われた北海道迷惑行為防止条例(昭和40年北海道条例第34号)は、公共の場所で人の身体や衣服をとらえる、立ちふさがる、つきまとうといった「執ような客引き」を禁じ、刑事罰を科す。だからこそ逮捕という手続が取れる。

つまり、市条例は「区域を面で規制して、行政指導と過料で押さえる仕組み」、道条例は「悪質な個別行為を刑事事件として立件する仕組み」であり、役割が違う。声かけの執拗さや態様が一定のラインを超えたとき、実務は道条例に切り替わる。今回の2件で警察が「およそ2分間」「執ように」といった時間・態様を明示しているのは、この構成要件を意識した発表の仕方だといえる。

客引きの先にある店――無許可接待と未成年就労

客引きの摘発が業界にとって重いのは、それが単体の迷惑行為で終わらないからである。

中央警察署は7月28日、風営法違反の疑いで札幌市中央区の無職の男(25)を逮捕している。容疑は、共犯者らと共謀して2025年10月25日、中央区南4条西3丁目の飲食店で、風俗営業の許可を受けずに女性従業員に男性客を接待させ、さらに18歳未満の女性従業員にも接待をさせたというものだ。

STVニュース北海道によれば、この事件は2025年11月7日、薄野交番に「飲み屋で働いているがやめさせてもらえなくて困っている」という相談が寄せられたことから発覚した。店では未成年者を含む女性従業員を雇い、酒の提供やカラオケといった接待のほか、客引きもさせていたという。男は「事件については黙秘します」と話しているとされる。

ここで、客引きと店側の違法営業が一本の線でつながる。無許可営業の店は正規のルートで客を集めにくいため路上の客引きに依存し、その客引き役を担わされるのが、店に縛りつけられた従業員であることがある。「やめさせてもらえない」という相談が端緒になった事実は、路上に立っている人間が必ずしも加害者側だけではないことを示している。

「薄野特別捜査隊」という専従部隊

すすきのには、この種の摘発を担う専従組織が置かれている。北海道警察札幌方面中央警察署の「薄野特別捜査隊」である。北海道警の公式サイトによれば、同隊は隊長(警視)の下、薄野地区における暴力団や匿名・流動型犯罪グループ等の犯罪組織に関する情報収集と犯罪の取締りなどを行っている。

歓楽街の路上犯罪に専従部隊を置く体制は、東京・歌舞伎町などでも見られるが、その主眼は個々の客引きの検挙そのものよりも、背後にある組織の把握にある。UHBが報じた「トクリュウに絡むスカウトグループ所属の可能性」という捜査の見立ては、この文脈に置くと理解しやすい。路上で声をかける人間を1人捕まえることは、その人物がどの集団に属し、誰に上納しているのかを解明する入口として位置づけられている。

背景――客引きは「入口」、スカウトは「出口」

歓楽街の路上には、大きく2種類の声かけが存在する。客を店に送る「客引き」と、働き手を店に送る「スカウト」である。両者は法的な扱いが別だが、担い手や資金の流れの面では重なることが少なくない。

このうちスカウト側については、規制が一段強化されたばかりだ。2025年6月に施行された改正風営法は、風俗営業者や性風俗店がスカウトに紹介料(スカウトバック)を支払うことを禁じた。北海道では2026年7月、この規定をめぐりソープランド経営の女とスカウトグループのリーダーの男が道内で初めて逮捕されたと報じられている。

客引き側の規制はより古く、都道府県の迷惑防止条例と市町村の生活環境系条例の二層構造で運用されてきた。だが、条例が積み重なっても路上の声かけがなくならないのは、それが末端の実行行為であり、摘発されても代わりの人員が供給される構造にあるからだ。今回逮捕された36歳の女や28歳の男が、どのような立場でこの役割を担っていたのかは、現時点の報道からは分からない。

私服警察官を相手に声をかけてしまった、という「間抜けさ」で消費されがちな事件だが、実際にはそれこそが取り締まり手法の中身である。制服警官がいる間だけ路上から人が消える表面的な抑止ではなく、私服捜査員が客を装って証拠を固め、日を改めて逮捕に踏み切る。すすきので7月末から8月頭にかけて続いた3件は、その手法が定常運用に入っていることを示している。

なお、いずれも逮捕の段階であり、有罪が確定したものではない。容疑を認める供述が報じられている事件についても、司法の判断が示されたわけではない点は留保が必要である。

本記事はSTVニュース北海道、UHB北海道文化放送、HBC北海道放送(TBS NEWS DIG)等の報道、および札幌市・北海道警察の公表資料をもとに構成しています。固有の事実は各報道・公表資料に基づくものであり、報道間で食い違う点は本文中で留保しています。逮捕は容疑の段階であり、有罪を意味するものではありません。